ブドウ畑について

 畑の概要

 

 

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農花ヴィンヤードのある小諸市糠地地区は、千曲川の右岸、浅間山や黒斑山の山塊に連なるほぼ南向き斜面に広がっています。糠地を代表するワイナリー、テールドシエルさんを筆頭に、すでに数人のワイン生産者が入植しており、千曲川ワインバレーの中でも新しいワイン産地として定着しつつあります。標高は約700~950メートルと高く、小諸の市街地に住む人々から見ると、「昔、遠足で行ったなあ~」という「山」エリアだそうです。

農花ヴィンヤードがあるのはおよそ標高850メートルのあたり。日当たりがよく日照時間が長い一方、冬はマイナス10度以下になることもざらです。温暖化が進む昨今、長野の高地は、本州に残されたブドウ栽培の適地のひとつです。

ヴィンヤードは約30a、小さな畑です。550本ほどのブドウ樹を植えています。

赤品種:カベルネフラン中心(メルロー、カベルネソービニョン少量)

白品種:シャルドネ、ミューラートュルガウ、ソービニヨンブラン、ケルナー、バッカスなど。(プチマンサン、ゲヴェルツトラミネール、リースリングなども少量)

 

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ヴェレゾン(色づき)が始まったメルロー

 

 

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 2018年冬に訪れたアルザスのブドウ畑の仕立てをまねてみたカベルネフランの区画

  

9月24日、白ワインを初仕込みしました

雨除けのため、ロウでコーティングされた傘をかけます

 

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早春のブドウ畑。ヒメオドリコソウなど、自然のお花畑が広がります。標高が高く寒いエリアなので、ブドウ樹は藁を巻かれて越冬します。

 

ブドウ栽培での農薬使用について

 

 ワインをご購入いただいた方から「無農薬ですか?」「有機ワインですよね」「オーガニックですね」などと言われることが何度かあったので、「農花ヴィンヤード」では、農薬使用についてどのような考え方をもって栽培しているかをきちんと開示しておく必要があると思い、今回、文章にまとめてみました。

 

 40代半ばを過ぎてからブドウ栽培を始めた私は、日本の農業について、それまで、あまりに無知でした。家庭菜園で「有機肥料」を使ったり、牛乳スプレーでアブラムシを退治したり、「口に入るお野菜は形は悪くても無農薬がいいね」くらいの認識しかなく、あこがれの「自然農法」「有機栽培」というものにたいして、ぼんやりとしたイメージしかなかったのです。

 

 まずは一般的なお話として、日本のほとんどの農産物は、「慣行農法」によって生産されています。収量アップだけでなく、農産物の見た目の美しさを保つことを目的に、それぞれの土地に合うように作られた「防除暦(1年間の農薬散布暦)」というものが存在します。

 それは、一朝一夕につくられたものではなく、土地の気候や栽培、病害虫の歴史を踏まえたうえで、長い間の栽培経験と知見、研究結果に基づいてつくられているものです。(当然ながら、農薬の過剰使用を防ぐ意味もあります。)

 

 しかし、ワインブドウの栽培を始めるにあたり、慣行農法の「防除暦」を初めて目にして、その農薬使用の量、種類の多さに私は愕然としました。味のみならず、芸術品のように美しいことが要求される生食用ブドウならまだ理解できますが、加工用ブドウでもこれだけの農薬散布が必要なのかと。

 

 「ネオニコチノイド系農薬がミツバチの大量死に関わっているのではないか」という報道もあり、日本の農薬使用規制が世界的に見てもかなり緩いことを問題視する声もよく聞かれます。サステナブルとか、SDGsとか、さかんに言われるようになっている現代、私のように人生の後半から新たに農業を始めるとしたら、何ができるだろうか。

 

 もちろん、先人たちの栽培の手法を学び、まねることから始めるのですが、そのなかに、何か、環境への負荷を減らし、実った収穫物にも、育てる自分にも優しいものをつくっていく自分なりの実験を入れていくことこそ、やる意味があるのではないかという思いがありました。そうでないならば、すでに自然環境に配慮しながらの栽培法を確立した先駆者らが生み出す美味しい農産物やワインはたくさんあるのですから、それを買って支援することのほうがよっぽど早いわけです。

 

 ということで、 これまで、以下のような考えに基づいて栽培を行ってきました。参考になったのは、近所のワイナリーの「有機栽培」畑の防除暦です。これをオリジナルでアレンジして、最小限の農薬使用を目指しています。まだ4年目、試行錯誤と実験の段階なので、このままうまくいくかはわかりません。

 

 ひとことでいうと、「減農薬」「不耕起」「無施肥」になります。(ひとことじゃなくて、3ことですね)。

「減農薬」(リュット・レゾネ)とは、「農薬の使用を最小限に抑えた栽培」という意味です。しかし、「有機JAS認証」のように、厳密な基準がなくあいまいです。どのような方針で農薬使用をしているかはそれぞれ生産者によって基準が違います。

 

 農花ヴィンヤードの場合

(農薬について)

●基本的には、有機認証されている農薬・石灰硫黄合材(芽吹き前に一度)とボルドー液(梅雨の時期・複数回)を使用します。

●加えて、休眠期と、芽吹き直後の時期に殺虫剤を使います。(休眠期はトラカミキリの幼虫が入るのを防ぐ、芽吹きの時期はカスミカメ等の付着を防ぐため。年2回、手散布)

●一昨年は、コウモリガによって枯死する樹がけっこう出たので、昨年と今年は、コウモリガの潜入を防ぐため、ガットサイドSを幹の下20センチほどまで塗布しました。(樹の太さによって、していない列もあります。)

(これらの化学系殺虫剤を、天然素材の忌避剤などに代替していけるかどうか、今後の課題とします)

●カビなどの病気が発生した時には、重曹スプレーを適宜使用しますが、昨年、べと病が多く出た2年目の列(収穫しない列)では、化学合成農薬の殺菌剤を散布しました。

●ひとつひとつの房に傘をかけて雨除けをすることによって、夏以降、雨によるべと病の感染を防ぐとともに、ボルドー液の被ばくを少なくし、皮に付いた野生酵母を守ります。

●夏場に発生し、葉を大量に食害するするマメコガネ・ドウガネブイブイに関しては、手で捕殺します。

 

(肥料について)

●化学肥料はいっさい使用していません。

●鶏糞や豚糞・牛糞などの堆肥はいっさい使用していません。

●バーク堆肥(樹皮を粉砕し、発酵させた土壌改良剤)、くん炭は、一昨年、1度だけ少量を撒きました。

 

(土・草について)

●除草剤はいっさい撒いていません。

●ブドウを植える前に1度、前に植えられていた飼料用トウモロコシの残渣とともに全体を耕運機で耕してもらいました。それ以来4年間、耕したことはありません。「不耕起化は土壌有機物の増加につながる」というラタン・ラル博士(土壌学)の研究に共感するからです。

●マメ科のクローバー、ヘアリーベッチ、クリムゾンクローバーの種を撒きました。それでもいろんな草が生えてくるので、そのまま生やしています。1年草、2年草などいろいろなものが混在しますが、少しずつ植生が変化していくのも、興味深く観察しています。ブドウ樹に害虫が入りやすくなったり、病気を防ぐために、ときどき草を抜いたり刈ったりしています。

 

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 ヘアリーベッチの花。クサフジの仲間です。

 

(もぐら)

●もぐらは一般的には根を切る害獣とされ駆除されますが、農花の畑では、固い粘土の畑に穴をあけてくれる貴重な存在だと思っています。

「私は、もぐらが土を盛り上げたところに、厚い芝生では芽を出せない植物がやってきて芽を出すことに気がつきました。私は自分の庭では土を掘り返したりしないので、このようなもぐらの地面への介入のみが保っている生命の多様性がある、ということになります」(ジル・クレマン※「庭師と旅人」より)

 

 ということで、農花ヴィンヤードは、現在のところ、有機栽培でも、無農薬栽培でもありません。

 ちなみに、有機栽培では、「有機栽培で認められている農薬」を使います。なので、無農薬と有機栽培は違います。そもそも、「農薬」とは、殺虫、殺菌、成長を促進するもののほか、生物農薬といって、害虫の天敵となる生き物を使うものなど、かなり広い意味があります。食品として使われる「重曹」「食酢」などでも、畑に撒けば「農薬」(特定農薬)とされます。なので、それらも一切使わない「完全無農薬」の実践は、相当な知見と労力、技術が必要となります。

 

 この記述は20215月末現在の実践です。

 まだまだ経験不足であり、栽培の先輩たちによると、このあとも、生育ステージによってブドウ樹は変わっていくとのこと。これからも試行錯誤を繰り返していきます。

 

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※参考:ジル・クレマンさんについて

 造園の勉強をしているときに出会った、フランスの造園家・修景家であり、哲学者・作家でもあるジル・クレマン氏の「できるだけ合わせて、なるべく逆らわない」という言葉を、大切にしています。クレマン氏は、「庭」は「動く」ものだというコンセプトをうちだし、植物は場所を変え、植生を変えていくもので、庭師の役目は、「自然の動きについていくこと」だとしました。分かりやすい例でいえば、「庭の通路に実生で植物が生えてきたら、通路のほうを迂回する」。クレマン氏の庭は、常にその形を変え、彼の「動いている庭がめざすのは、生命の多様性が最大限になるように生き物を守ること」としています。

 

(2021年5月30日記)